Melts in your mouth
第三章
子供っぽい男
「何で菅田って平野とお昼一緒に過ごしてんの?」
ほんのり赤らんだ顔で私に問うた山田が、残り少なかったビールを一気に飲み干して手を挙げてお代わりを頼んだ。何の前振りもなかっただけに、唐突に自分の元へ飛んで来た質問に「え?」と間抜けな声を漏らした。
私と山田が挟んでいるのは無限キャベツという名前のキャベツをごま油と塩昆布で和えたおつまみと、鶏の唐揚げと、だし巻き卵。それから本日のメインであるグツグツと煮えているもつ鍋だ。
もくもくと昇る蒸気に混じって、ニンニクとニラの香りが鼻孔を突く。美味しそうな香りに胃が空腹を訴えてグーグーと鳴った。
お互い多忙な社畜生活から解き放たれた金曜日の夜だからか、既にジョッキ二杯のビールを飲み干している。営業の数も多いと噂の広報部に所属しているのに、山田の肌は日焼け知らずでとても白い。おかげでアルコールがしっかり回っているのだと紅潮した顔や首を見てすぐに判断できる。
そういえば山田って、あんまりお酒強くないんだっけ。
「菅田、前に諸事情があるって言ってたよな?」
「うん。」
「その諸事情について、訊いても良い感じ?」
虚ろになっている双眸で私を捕らえたまま首を捻る相手への返答に困って、お箸でだし巻き卵を摘まんで口に含んだ。刹那、ジュワっと溢れ出た出汁が口腔内に洪水を起こす。山田が推薦していたのも頷ける程に、どのおつまみも味のクオリティーが実に高い。
大衆居酒屋よりちょっとだけ価格設定が高めなだけあって、店内の雰囲気も小洒落ている。間接照明も橙色で落ち着くし、掘り炬燵になっているのも安堵感を覚える。障子で隣の席と仕切っている感じも素敵だった。
平日最後の金曜日の夜なんて、蓄積された疲労で大抵の社会人が草臥《くたび》れた姿になるものだと認識しているのだが、私の正面で三杯目のビールを煽っている山田からはまるで疲弊を感じない。
髪の毛だって相変わらず無造作にセットされているし、仕事終わりにも関わらずワイシャツの皺も極めて少ない。肌だってツルツルしていてデパコスで毛穴だらけの顔面をどうにか誤魔化している私とは大違いだ。
「質問の内容によるかも。」
悩んだ末に私が漸く開口して苦笑するまでに数十秒が経過していた。その間にもつ鍋が食べられる状態になり、すかさずそれを取り分けてくれた山田が熱々のもつ鍋が揺れる器をこちらに差し出した。