Melts in your mouth
平野からの阿呆みたいなメッセージを読んで、何だこいつクソみたいに暇人なんだな。そんな感想を胸中で並べながらも自然と口許は緩んでしまう私がいる。
実をいうと、今週は平野と一度もお昼を一緒にしなかった。そんな事は初めてだった。平野が同伴していた取材が本来、月曜日で終わるはずの予定だったのだが、水曜日まで延びて、木曜日は私が担当している漫画家先生に呼ばれて不在だった。そして今日は平野が参加していた違う部署との会議が長引いて昼休憩の時間がズレた。
私も平野もsucré編集部内ではそこそこ多忙だから、寧ろ今までちゃんと一緒に過ごせていた事の方が奇跡に近い。あいつが耳を塞ぎたくなるまでにやかましいからなのだと言い聞かせていたが、平野のいない昼休憩のいつもの指定席には沈黙が漂っていて、それがちょっぴりだけ虚しく感じた。
ほぼ平野と会わない一週間を終えたのだが、平野は私が外に出ている日以外は全て手作りの弁当を用意してくれた。あの男に栄養管理をされる様になってから、肌の治安が非常に良くなっている。落ちる一方だった体重も2kg増えた。いかに自分が身体に悪い食生活をしていたのか覚《さと》らずにはいられなかった。
お互いのスケジュールが見事に擦れ違ったこの五日間だったけれど、あいつと会ってない気がしなかったのは、先にも述べたが十中八九あの男からドン引きする量のメッセージが届いたからだ。
『永琉先輩不足で死にそうなので、平野頑張れって言ってください』
『あ、できればそのまま翔好きだよって言って頂けると幸いです』
私がどれだけ無視しても、あいつからのメッセージ受信は止まらなかった。
『今日も永琉先輩に会えそうにないです😢俺に会えなくて先輩病んでませんか?罪な男でゴメンネ(´・ω・`) 』
『取材が……水曜日まで……延びるのが決定しました……え?平野愛してるって?そんな照れます~」
火曜日の夕方辺りから、どうやらあいつには幻聴が聞こえ始めたらしかった。
『俺が出社した日に限って何で永琉先輩いないの!?!?俺、うさぎと同じなんですよ!?!?寂しかったら死ぬんですよ!?!?』
『🐰🐰平野寂しいぴょん🐰🐰』
私が勇者の如く既読無視を貫いていたからだろうか、木曜日、あいつはわざわざ私の仕事用のメールアドレス宛に阿呆みたいな文章を送り始めた。
因みに今日に関しては、会議に赴く寸前の平野に穴が開く程凝視された。舐め回す様に見られた気分はしっかり不快だったし、仕事がやりづらいったらなかった。限界を迎えた私が平野の目を手で覆い隠せば「もう永琉先輩ってば、オフィスでこんな過激なスキンシップはやめて下さい恥ずかしい」と言ってニヤついていた。
もういよいよ、あいつは何らかの病に冒されていると思われるので、そろそろ良い精神科を調べて紹介する事を検討中だ。