Melts in your mouth
私の人間として最低品質発言に吹き出して、山田がケテケテと腹を抱えて笑い出した。あ、良かった。いつもの山田だ。
「菅田ってブレないよな。」
「そう?」
「ん。いつも想像の斜め上の返事が来る。そんで敵わないなって毎回思う。」
「え、褒めてる?貶してる?」
「褒めてる。それもめっちゃ褒めてる。」
ビックリだ、全然嬉しくない。こんなに嬉しくない褒め言葉ってあるのかしら。頬を引き攣らせる私に「全然嬉しくねぇとか思ってるだろ?」と図星を突いて更に笑う山田。
こっちが怪訝な顔で冷たく目を細めれば、ひとしきり笑った山田が目尻に浮かんだ涙を指で拭って、いつもみたいに頬杖を突いた。さっきよりも山田の頬の赤みが強くなっている。
高校生か大学生と思われるホールスタッフがそんな山田を指差して、キャッキャッとはしゃいでいるのを視界の端で捕らえた。
「なぁ、菅田。」
「なに。」
「菅田は自分で思っている以上に、魅力的な人間なんだよ。」
「今更機嫌を取っても無駄。無駄無駄無駄。」
「DIOじゃん。」
「ド悪党じゃねぇか。せめてジョルノ・ジョバーナって言えよ。」
ツボにはまってずっと笑っている山田がちょっぴり憎くてビールを煽る。あっという間に空になったジョッキの縁をクルクルと指でなぞりながら、口を開いた。
「DIOなのは不満しかないけど、私で良ければ、仲の良い同期として友達としていつでも酒くらい付き合うから。だから、あんま根詰め過ぎんなよ。山田は良い奴だから心配になる。」
頬が熱いのは決して臭い台詞を吐いて恥ずかしいからではない。アルコールのせいだ。華金に浮かれているせいだ。夏が迫っていて暑いせいだ。
火照る顔を手でバタバタと仰ぎつつ山田を一瞥すれば、相手は口許に艶笑を浮かべて私を見つめていた。
「ありがとうな…って言いたいけど、俺は菅田を仲が良い同期とも友達とも思ったことなんてねーよ。」
山田が呟いたその一言は、クタクタになったニラが漂うもつ鍋のグツグツと煮える音に溶かされた。