おこぼれ聖女と魔眼の騎士
おこぼれ聖女誕生


私はエバ・フォレスト。十六歳になったばかり。
こげ茶色の髪と緑の瞳という、これといって特徴のない女の子。
この春から治療院の治癒師見習いとして働いている。
『治癒師』というのはケガをしたり病気になった人を治療する人のことで、その資格を得るには難しい試験があるんだ。
合格するまでに何年もかかる人もいるらしいから、早く治癒師になれるよう毎日頑張っているところだ。

さて、今日も仕事に行くぞ。

「セバスじいちゃん、いってきま~す」

私は裏庭にいるじいちゃんに声をかけた。

「ほいよ、気をつけてな」
「は~い」

わが家は王都の中央通りからちょっと外れた場所にある、ちっぽけな薬屋『フォレスト薬草店』だ。
裏庭は半日陰になっていて風通しがいい場所だから、何種類かの薬草を植えている。
薬師のじいちゃんは、今朝も難しい顔をして薬草を摘んでいるんだろう。


私がセバスじいちゃんと暮らしているのは、マントラスト王国の王都、マントールだ。

マントラスト王国は広い大陸の南端にある細長い形をした国で、農地は少ない。
でも北にそびえる高い山脈には貴重な鉱物資源が埋まっている。
だから周辺の国と貿易協定を結んでいて、農作物の輸入と引きかえに金や鉄を輸出している。
しばらく戦争も起こっていないし、まあまあ平和で豊かな国といえるだろう。

セバスじいちゃんは若い頃は王宮に勤めていたくらい優秀な薬師だったらしい。
偏屈だし愛想がないけど腕は確かだから『よく効く薬を扱っている』と、店の評判はいい。

「よいしょ」

店には毒のある薬草だって置いてるから、入り口は安全のためがっしりと造られている。
私の力じゃ、めいっぱい押さないとドアが開かない。

独特の香りに満ちた薬屋から一歩出て、私は朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
まだ通りを歩く人は少ない時間、狭い石畳の道を私はゆっくりと歩き出す。













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