おこぼれ聖女と魔眼の騎士
王宮は貴族から使用人までが沸き立っていた。
「治癒の力を持つ新しい聖女様だ!」
「傷をあっという間に治してしまわれた!」
「ミネルバ侯爵家のフローレンス様は、癒しの聖女様だ」
高位貴族の中から聖女様が現れたという興奮は庭園にも伝わってきて、もはやジョフレ様のお茶会どころではなくなってしまった。
「聖女……」
「傷を治した聖女」
アドラさんと王宮庭師さんは、私の顔をじっと見つめて頷き合った。
「このことは、お互いに秘密にしよう」
「もちろんだ」
侯爵家のご令嬢が聖女として華々しく誕生した日に、平民で孤児の私までが『聖女』だと名乗り出るとロクなことにならないと大人たちにはわかっていたのだ。
せっかくの新しい聖女様の誕生だ。
私にも力があるなんて誰も信じないだろうし、フローレンス様にとって邪魔者だからと、最悪の場合は消されてしまうかもしれない。
それに私が血を止めたのだって初めてのことだから、周りの人たちも半信半疑で今ひとつ信憑性もない。
王宮内の騒ぎを見れば、私が聖女だなんて口にするのも憚られることだ。
「侯爵家の令嬢が聖女の力に目覚めた日だなんてなあ」
「もしかしたら、その恩恵でエバにもチョコッと力が宿ったのかもしれない」
大人たちはヒソヒソと話していたけど、私にはことの重大さがわかっていなかった。
「きっと、お貴族様のおこぼれに預かったんだろう」
「おこぼれ聖女か……」