おこぼれ聖女と魔眼の騎士
(おこぼれ……聖女⁉)
誰よりも一番私が驚いているから、言葉も出ない。
(院長様との約束が……)
不思議な力のことは秘密にするように言われていたのに、傷を治す瞬間を見た人が大勢いたのだからどうしようもない。
アドラさんたちはとても困っていた。
「ここにいる園芸師、庭師一同は協定を結ぶことにしよう」
「今日エバがしたことはけっして口にしてはならない」
「約束を破ったものは、二度と王国では働けないと思え」
アドラさんは大師匠ともいえる存在だ。その言葉にみなが大きく頷いだ。
すぐに私をアドラさんのもとから移すことが決まった。
この日、私は王宮にいなかったことにするためだ。
どこよりも安全で、存在を隠すことができる場所。
皆の考えはすぐにまとまった。というか、そこしかないということになったらしい。
『フォレスト薬草店』
それが大人たちの選んだ場所だった。
薬草店の主、セバス・フォレストという人は難しい薬の調合もできる名の通った薬師らしい。
この国だけでなく近隣諸国でも名高くて、若い頃は王宮にも勤めていたほどの人だ。
その人なら秘密を守れるし、聖女の力があったとしても誤魔化してくれるという。
ただ偏屈なお年寄りで、現在はひっそりと王都の裏通りで暮らしている。
その人が私を引き受けてくれるかどうか、誰にも確証はないらしい。
「とにかく、エバを連れて行ってみよう」
王宮内はお祭り騒ぎになっていた。
私はアドラさんの大きな身体に隠れるようにして、誰にも咎められずに庭園から抜け出した。