おこぼれ聖女と魔眼の騎士
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フォレスト薬草店は王都の繁華街から一本わき道にそれた路地の奥にある。
(引き受けてもらえなかったら、私はどうなるんだろう)
せっかくアドラさんの店での仕事にも慣れてきたところだったのに、私は心細くて泣きそうだった。
「大丈夫だ。セバスじいさんなら安心できる」
アドラさんはそう言ってポンポンと肩を叩いてくれたけど、私は暗い気持ちになっていた。
修道院を出てからアドラさんの店で頑張ってきたというのに、やっと馴染んだ居場所がなくなるのが怖かった。
院長様との約束通り、不思議な力があることは内緒にしていたけれど今回のことは誤魔化しようがない。
アドラさんはセバスさんという人を全面的に信頼しているらしいけど、断られたらどうしたらいいんだろう。
アドラさんに連れられて路地の奥にある薄暗い店の中に入ると、そこは薬草で溢れていた。
独特の草の香りと、香辛料のようなツンとする刺激のある香りが混ざって店の中に満ちている。
アドラさんはチョッと顔をしかめたけど、私はなぜか懐かしい気持ちが胸にわき上がった。
(なんだか不思議な気持ち……)
身体の中にすっと入ってきて、香りに体中が満たされるような心地よさ。
薬草なのに、臭いなんてまったく思えない。
ずっとここにいたくなるような、故郷に帰ったような感覚だった。
故郷なんてないはずなのに、この香りを私は知っているような気がした。
「セバスじいさん、なにも聞かずにこの子を預かってくれ!」
店の奥に座っていた人に向かって大きな声で叫ぶと、アドラさんは頭を下げた。
その勢いに押されて、私もペコリとお辞儀をしたまま固まった。
アドラさんもそのままの姿勢で、ピクリとも動かない。