おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「大きな声だなあ」
ひと呼吸あいてから、のんびりとした嗄れ声が聞こえた。
その声でアドラさんが頭を上げたので私もならう。
チラリとこちらに目を向けたお年寄りは、右目に分厚いモノクルをかけている。
お顔も手もしわくちゃで、背中は丸くなっているというのにものすごい威圧感がある人だ。
(アドラさんよりコワイかも……)
じっと私の顔を見つめていたけど、しばらくして「ふん」という小さな声が聞こえた気がした。
どうやらそれが了解の返事だったらしい。
「ありがとう、じいさん! 恩にきる」
アドラさんはなに言わず、ポンポンと私の頭を嬉しそうに撫でてくれたっけ。
***
こんな理由で、私は『エバ・フォレスト』になった。
役所にどんな手を使ったのか怖くて聞けないけど『フォレスト薬草店』の養女になる手続きはあっという間だった。
庭師の仕事で覚えた知識で店の奥にある小さな薬草園の世話をしたり、店番をしながらセバスじいちゃんに薬作りの指導を受けた。
じいちゃんは厳しいし、もちろん掃除や洗濯、食事の支度も私の仕事だから結構大変だ。