おこぼれ聖女と魔眼の騎士
セバスじいちゃんは私がケガを治したことを聞いていたらしく、引き取られた翌朝から薬草を煎じる水に願いを込めるように指示された。
『もし聖女の力があるのなら、隠し持っていてもしょうがない』
その力は秘密にしていてもいいけれど、もったいない。
せっかく得た力なら、困っている人に使ってくれないだろうか。
薬に少しだけ聖女の力が宿るように、煎じる水に祈りを込めて欲しい。
じいちゃんはそう言って、私を見つめた。
その真剣な眼差しに、私はコクンと頷いた。
毎日祈る練習をして、いざという時のために力を鍛えておくというのがじいちゃんの考えだ。
『どんな言葉でもいいから、薬草を煎じる水に願ってごらん』
セバスじいちゃんに促されて、私は心の中で祈ってみた。
(いい薬ができますように。みんな元気になりますように)
すると水がフルリと揺れる。
これが私の持つ力が水に込められた証拠だと、じいちゃんは嬉しそうだった。
それから毎日のように水に願いを込める練習をしていたら、じいちゃんが私の力を生かすために一番いい場所を選んでくれた。
『このままうちで薬師になってもいいんだが……治療院こそ、エバが働くのに最適だ』
おこぼれで授かった聖女っぽい力だけど、使わなければ宝の持ち腐れになってしまう。
『人間にはもともと病を治そうという力があるんだ。あまり大きな力で身体に負担をかけたり、無理やり病気やケガを治しても意味がない。少し手助けをしてやるくらいがちょうどいいんだよ』
***
気がつけば、セバスじいちゃんの孫娘、実は養女として暮らし始めて二年経つ。
もうすっかり薬草店での暮らしに馴染んでしまった。
生まれてすぐに捨てられて、修道院で拾われて、園芸店で働いてからセバスじいちゃんの養女になるまでにはこんな事情があった。
けっこう忙しい十六年でしょ。
私はエバ・フォレスト。
おこぼれで授かった力を使って、こっそりと人の役にたてればと治癒師を目指しているところ。