おこぼれ聖女と魔眼の騎士



「エバ、朝からすまないが、エンド地区まで行ってもらえないか?」
「エンド地区ですか?」

「ああ。どうやら井戸がやられたらしい」
「またですか」

「もうすぐ王妃様のための大噴水が完成するってときに、困ったことだ」

王都に住む住民にとって水はとても大切だ。
貴族や裕福な商人の家なら屋敷の中にいくつも井戸があるだろうが、平民はそうはいかない。
街を流れるマントール川からも水路を通しているけれど、それだけでは足りない。
地区ごとに公共の井戸を掘って確保しているくらいだから水は貴重なのだ。

といっても王国で水が不足しているというわけではない。

王都の北には霊峰と呼ばれるマント山をはじめとする高い山脈がそびえ、冬になるとずいぶん雪が降り積もる。
そのおかげで山から流れ出る川の水量は豊かだし、地下水だって絶えることがない。
これまで王都のどこを掘っても井戸水が出たし、水路が整備されているからふんだんに水が使える。
おかげで周辺の国に比べてもマントールはどこより住みやすいといわれてきた。

それなのに、近頃は水のトラブルが絶えない。
井戸の水が突然枯れたり汚れたりするから、毎日の生活に支障がでるのだ。




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