おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「わたしは区長をしているガロンだよ」
「よろしくお願いいたします」
ガロンさんの眉間から縦皺が消えて笑顔になった。
「朝からすまないねえ」
「いえいえ、井戸がおかしいと二コラ神官様から聞いたのですが」
「そうなんだよ。ここのは昔から水がたっぷり湧き出ていたんだ。昨夜はなんともなかったのに、今朝は一滴の水も無くなってしまってね」
「急に? 突然枯れたんですね」
「わけがわからないよ」
ひと晩で井戸に変化があるなんて珍しい。
「さっそくですが、井戸を見せていただけますか?」
「ああ、頼む」
レンガを積んだ井戸のそばまで行くと、地区の人たちが近寄らないように騎士たちがぐるりと囲んで立っていた。
「ガロンさん、子どもを連れてこないでくれ」
「いやいや、この子が例の……」
「は?」
三十は過ぎていそうな口髭をたくわえた騎士のひとりが文句を言いかけたが、すぐに気が付いたらしい。
私の噂を聞いていたのだろう。
「こんな子どもが? 井戸の治癒師?」