おこぼれ聖女と魔眼の騎士
目をむくほど驚いた表情を見せ、頭のてっぺんから足の先までジロジロと私を見てくる。
(失礼な騎士だなあ)
髭の騎士に気を回すのはやめて、私は井戸に近付くとぐっと身を乗り出して底を覗き込んだ。
水量豊かな井戸だった筈なのに、水の気配がさっぱりしない。たしかにおかしい。
(なんで枯れたんだろう? それもひと晩で……)
私はそっと手を伸ばして水の気配を探す。
(瘴気……かすかだけど瘴気を感じる。それが嫌で、水がこの井戸を避けた?)
もっとよく見ようと目を凝らす。
(井戸の底になにかいる! 魔獣?)
森の奥ならわかるが、小さいとはいえ魔獣が王都に出るなんておかしい。
小動物が瘴気にあてられて魔獣に変化してしまったのだろう。
この前のG地区の井戸では澱んだ瘴気を感じたし、いったいこの王都でなにが起こっているんだろう。
(私がなにか見落としていた?)
もう一度、私は井戸に向かって手を伸ばす。
そして、そっと心の中で祈りを捧げる。
(穢れた者よ、この世から去れ)
小さな魔獣は一瞬だけ光ると姿を消した。
(これで大丈夫。でも、この井戸はもう使えない)
一晩だけでも魔獣がいた場所だから、もう清らかな飲み水は望めない。