おこぼれ聖女と魔眼の騎士



「かあちゃん、喉が渇いたよ」
「もう少しがまんして」

「困ったなあ」
「仕事にならないよ」

そんな声が住人たちから聞こえてくる。朝から水が使えなくて困り果てているはすだ。

人が生活するのに水は欠かせない。
食事はもちろん、洗濯や掃除、食堂や八百屋さんたちは仕事に影響するだろう。
水路から汲み上げて運んでくるのは重労働だし、このまま専門家がくるまで待っていては生活が成り立たない。

区長さんは泣きそうだけど、髭の騎士は薄ら笑いを浮かべている。
住民が困っているのを見て楽しんでるみたい。いやなヤツだ。

それに『治癒師見習いごときがなにを言っているんだ』と馬鹿にしたような顔つきで私を見ている。
地区の人が困っているから、新しい井戸を掘ることを提案しただけなのに。

「ここを掘っても水が出るはずないと思われるんですね。地区の皆さん困っているんですよ。あなたが連絡したら専門家がすぐ動いてくれるんですか?」
「なんだ? 偉そうに」

第三騎士団からの連絡を待っていたら、新しい井戸ができるのなんていつになるかわからない。

「私が掘って水が出たら、文句ありませんよね」

そう言って、私は近くにあったシャベルを手に取った。
ここぞと思った場所に、エイッとばかりにシャベルを突き立てる。

「お前、なにするんだ!」
「見たらわかるでしょ。井戸を掘るんです」

私は思わず髭の騎士に向かってたんかを切ってしまった。
小娘相手だというのに、騎士は本気で怒ったのか顔を真っ赤にする。

周りにいた近くの住民たちは、偉そうな騎士を相手にしているだけにこわごわとした表情だ。

「お前、私を馬鹿にしてるのか!」


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