おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「貴様がこんなところを掘ったって、水が出てくるわけないだろう!」
騎士様は怒り心頭といった感じで、今にも剣を抜きそうな構えだ。
(ああ、やっちゃった)
理不尽な言葉に過剰反応してしまうのが私の悪いところだ。
だって口先だけで、働きもせずに偉そうな人には我慢できないんだもの。
(ごめんなさい、院長様。せっかく育ててくださったのに、こんなところで切られちゃう……)
院長様と神様に懺悔しかけたときだ。
「いや、あなたの評判は聞いている。私は水が出ると信じているよ。すぐに井戸を掘る手配をしよう」
後ろから爽やかな声が聞こえた。
驚いて振り向くと、やはり第三騎士団の制服に身を包んだ背の高い騎士が立っている。
「このところ王都で相次いでいる不可解な井戸の問題を解決してくれている人だろう?」
「え~と」
私みたいな治癒師見習いに、ものすごく丁寧な話し方をされて戸惑ってしまう。
「ありがとう。大勢の人が君に救われているよ」
「ど、どうもです」
よく見たらスラリとした体躯だけでなく、お顔も凛々しい方だ。
深紅の髪に、宝石のようなキラキラした赤い瞳。
「綺麗な瞳……」
その美しさに感動した私は、思わず言葉にしてしまっていた。
「え? 綺麗?」
この瞳のこと? とでも尋ねられたような気がしたけれど、ルビーのような目でじっと見つめられていたら胸がざわざわしてきて思わず俯いてしまった。
「私は第三騎士団の副団長、アランだ。また王都の井戸でなにかあったら君に声をかけるよ」
「は、はい」
副団長が『信じているよ』とまで言ったせいか、怒鳴っていた髭の騎士もさすがに黙ってどこかへ行ってしまった。
井戸の周囲に集まっていた人たちも、ホッとした顔を見せている。
アラン様は私から視線をそらさない。
素敵な騎士様が目の前にいると思うと、なんだか顔が熱くなってくるから困った。
(ど、どうしよう。恥ずかしすぎて顔が上げられない)