おこぼれ聖女と魔眼の騎士
十六になったというのに、私は男性に免疫がない。
アドラさんのところにも男の人はいたけど、既婚者のおじさんばかり。
それに異性というより職人としての付き合いだった。
治癒師見習いになってからも、神様にお仕えしている神官様くらいとしか交流はない。
私の周りにいるのはおじいさんかおじさんばかりだから、若い男性に対してどう接していいかわからないのだ。
「君の名前は?」
「エ、エバです。エバ・フォレストといいます」
やっと顔を上げて名前を告げると、アランさんはちょっと驚いたような顔をした。
「もしかして、フォレスト薬草店の?」
「じいちゃんの店をご存知ですか?」
アランさんがニッコリ笑った。
「セバスじいさんの薬には騎士団もお世話になっているんだ。じいさんによろしく伝えてくれ」
さっきまでのクールな表情とはうって変わって、太陽のような明るい笑顔だ。
「わかりました。そ、それではこれで失礼いたします」
私はアランさんにペコリと頭を下げると、そのまま駆け出してしまった。
失礼かと思ったけど、こんな顔を誰にも見られたくなかったのだ。
エバ・フォレスト、十六歳の春。
どうやら遅い初恋がやってきた。