おこぼれ聖女と魔眼の騎士
悪しきものが見えるとは sideアーロン



(やっと見つけた)

ずっと探していた少女に出会えて、俺の気分は爽快だ。

俺はアーロン・シュナーデル。
普段は第三騎士団副団長で通しているが、宰相直属の部下だ。

さっき名乗ったアラン(・・・)というのは、第三騎士団の副団長という肩書きを使うときだけの偽名だ。
第三騎士団に属すると名乗った以上、平民らしい名前じゃないと怪しまれるから。

シュナーデル家は貴族の中でも古い家柄で、昔から『ある力』を持つ者が生まれる家系だ。
特に髪と瞳が赤く生まれついた息子に、その『力』が強く宿るといわれている。

この秘密は王家とシュナーデル家だけに、代々口伝で伝わっている。

『赤い髪と瞳の両方を持って生まれた者は、王家を助けるために生きる運命を背負っている』

赤い瞳は魔獣を生みだす瘴気とか、心の奥に悪意を持つ者の澱んだ気が見えるのだ。
特に髪の毛まで赤い者が、力が強いとされている。
だから王家を守るために、シュナーデル家の力は欠かせない。

俺の父は、もちろん赤い髪と瞳を持っている。
自分と同じ力を受け継ぐ息子を得るまでに、何人もの妻を求めた。

若くして迎えた正妻は、赤い髪で赤い瞳の男の子を産むことができなかった。
焦った父は次に側室を迎えたが、赤い髪の女の子が産まれただけだった。
自棄になったのか魔が差したのか、父は正妻の侍女に手を付けてしまった。それが俺の母だ。

たまたま俺が赤い髪と瞳を持って産まれてしまったがために、母は悲惨な目にあった。
もしなんの力も持たない子を産んだなら、公爵に見限られて屋敷から出ていけただろうに。
母は公爵家で飼殺しともいえる扱いになってしまった。

気が強い正妻や嫉妬にかられた側室は、母に対して言葉にできないくらいの扱いをした。
毒を盛られたり階段から突き落とされそうになったりして、命の危険があったくらいだ。

あまりにも酷い扱いだったので、さすがの父も母を離れに移した。
だけど心の傷は癒えなくて、今では部屋から一歩も出られなくなっている。
ぼんやりした表情でベッドに横たわり、ただ息をしているだけの母の姿を見るたびに胸が痛む。




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