おこぼれ聖女と魔眼の騎士
(これは……なんの輝きだ?)
ものすごい光は、周りの大人たちには見えていないようだった。
みんなケガ人を見ているが、光にはまったく気づいていない。
眩い光がおさまると、職人のケガは綺麗に治っていた。
大人たちがどよめく中、少女はポカンとしている。
「見たかい? 今の光」
ふいにうしろから声をかけられた。
そこにはお茶会の主役であるはずのジョフレ王子が立っているではないか。
「生まれて初めて見たなあ……あんな強い聖女の光」
「聖女?」
「そうだよ、お母様が時折あんなふうにキラキラしたもの指先から出しているのが見えるんだ」
「ということは、あれは治癒の力なのか?」
あの少女は聖女なのかもしれないと俺の胸は高鳴った。
だが王子と普通に会話してしまったことに気がついて、俺は焦った。
「殿下申しわけございません。失礼をいたしました」
慌てて頭を下げたけど、王子はまったく気にしていなかった。
「いいよ、そのままの話し方で。堅苦しいのは嫌いなんだ」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
「あの子、王宮の侍女じゃないみたいだな」
「平民ですか? どうしてここに?」
ジョフレ王子にもわからないのか、首をひねっている。
「これまでの歴史の中で、平民の聖女なんていなかったはずだ」
誰よりも詳しく国の歴史を学んでいる王子が知らないなら、あの少女はとんでもない存在なのかもしれない。
「こんな貴重なものを見られるなんて、庭に逃げてきてよかった」
「でも、みなさまが探していらっしゃるのでは?」
「君と話してるほうが楽しいよ。アーロン・シュナーデル、君だってお茶会から逃げてるんだろ?」
「お恥ずかしいですが、その通りです」
王子は俺の持つ赤い色を見ても、どうやら平気なようだ。
「なら、しばらく一緒にいよう」
そう言って、俺よりひとつ年下の王子はいたずらっ子のようにニヤリと笑った。