おこぼれ聖女と魔眼の騎士
植え込みの陰から少女や庭師たちの慌てた様子を見ていたら、王宮の方が急に騒がしくなった。
バタバタと人が走ったり騒いだりしている。ジョフレ王子の姿が見えないと騒ぎになったのだろうか。
下男だろうか、大慌てで走ってきてなにかを伝えている。
話を聞いた庭師たちが浮かない顔になり、話し合いを始めた。
「何事だろう? なにがあったんだ?」
俺と王子は理由がわからず顔を見合わせた。
後からわかったんだが、どうやら俺と王子が奇跡の光を見たのと同じ頃、王宮の中でも似たようなことが起こっていたらしい。
マンシュタイン侯爵令嬢が、招かれていた貴族の子どもの傷を癒したというのだ。
それを見て新たな聖女が現れたと大騒ぎになっていたようだが、どうやら治したといっても指先をチョッと切ったくらいのケガだったらしい。
(あの少女はかなりの大ケガを治していた)
だが王宮が次期聖女と発表したのは、貴族であるフローレンス・マンシュタイン嬢だった。
(違う! 聖女はあの子の方だ!)
俺は心の中で叫んだが、その事実は胸の奥にしまい込んだ。
父にも誰にも言わなかった。
なぜだか、少女のことを大人たちに話したくなかった。
それはジョフレ王子も同じだったようだ。
俺たちふたりは無意識のうちに、あの少女を守る行動に出ていたらしい。
ジョフレ王子の側近や婚約者を選ぶはずが、聖女が現れたためにそれどころではなくなった。
おまけに新しい聖女となったフローレンス嬢は第一王子の婚約者に決まった。
世の中はお祭り騒ぎで、王宮もパーティーが続いて皆が浮かれている。
王妃様のお気に入りだったはずのジョフレ王子は、いつの間にか影の薄い存在になってしまった。
俺とジョフレ王子はあぶれた者同士、いつの間にか親友になった。
それからふたりであの少女の行方を捜したが、まったくつかめなかった。
シュナーデル家の力でも王家の力でも探せないくらい、ぷっつりとあの子の存在は消えてしまった。
俺には真の聖女を、誰かが意図的に隠したとしか思えなかった。