おこぼれ聖女と魔眼の騎士



俺は十八歳になってすぐに、王宮に出仕するように父に言われた。
どうやら宰相直々に、騎士学校を卒業したばかりの俺をそばに置きたいということらしい。

王宮への出仕が決まって、俺はシュナーデル公爵の正式な後継者と認知された。
宰相からは、第三騎士団の副団長という肩書きも与えられた。

それ以来、王宮では次期シュナーデル公爵であり宰相補佐として、王都では平民出身の第三騎士団副団長の立場で動いている。
このふたつの顔を使い分けるのも、俺の力量次第と試されているのだろう。

何年か宰相の指示で仕事をさせられた。
窃盗団の捜査、貴族を狙った詐欺事件、さる貴族の後継者争い。いわゆる汚れ仕事だ。
今年に入ってからは、井戸のトラブルについて調べろと言われた。
王都で井戸のトラブルは増え続けているし、王家への批判めいた噂も流れ始めている。

『大噴水の工事が災いを呼んでるんじゃないか』
『霊峰から噴水のために水を引くなんて大それたことをするからだ』

王都に造った大噴水まで水を引く大工事を始めて、もう何年も経つ。
あと少しで完成するという今になって、災いが起こるというのもおかしな話だ。

実際に井戸が使えなくなるものだから、王都に暮らす人々は疑心暗鬼になっているのだ。
 
(さて、どうしたものか)

考えを巡らせていたら『井戸の治癒師』と呼ばれる存在を知った。
大神殿の治癒師見習いのひとりが、あちこちで井戸が枯れた原因を突き止めたり綺麗な水が湧く新しい井戸を掘りあてたりしているという。

(それが、あの時の少女だったなんて)

このところ王都で起こる井戸の不具合には、王宮でもお手上げ状態だった。
なにしろ人が生きるには水は欠かせないし、王都での暮らしに井戸はなくてはならないものだ

井戸が使えないとなると喧嘩やいじめが起こる。
すると、王都の民を守る第三騎士団の出番も増える。

負の連鎖というべきか、王都の民の気持ちが刺々しくなっているようだ。




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