おこぼれ聖女と魔眼の騎士
原因究明に行き詰まっていた時に、あの茶会の日に見かけた彼女と出会った。
(彼女だ。やっと会えた)
まさか会えるなんて、夢にも思っていなかった。
あれから彼女に会いたくてずっと探し続けていた。
彼女はほんの少し背が伸びたくらいで、素朴な雰囲気も変わっていなかった。
わき上がる喜びと、それと同じくらいの不安が自分の心の中でせめぎあう。
(彼女だからこそ、奇跡を起こせるのかもしれない)
すでに噂になっている水に対しての不安は、王家への不信につながり始めている。
宰相から俺に直々に仕事の依頼があったのも、そんな状況を恐れたからだろう。
珍しく井戸に詳しい治癒師見習いがいるとは聞いていたが、もっと年寄りだと思い込んでいた。
彼女の力を信じられないと思う騎士は、あからさまにバカにした態度をとっていた。
それなのにデカい身体と大声で脅す騎士に向かって、彼女は一歩も引かなかった。
困っている人たちのために、ここに井戸を掘れば水が出ると言い切ったのだ。
(あの子の力なら、きっと水は出る)
俺には確信があった。なぜなら、俺には彼女の力が見えるからだ。
彼女の指先からは、王宮で初めて見たときよりずっと清浄な光がこぼれている。
質素な治癒師見習いのワンピースを着た華奢な少女は、井戸の底を見ながら光を放つ。
(聖なる力……)
ほかの人間には見えないだろう。
そして驚いたことに、彼女がなにかつぶやいたら井戸の底から黒いもやのようなものが昇ってきた。
あっと思った瞬間には、それは霧のように消えてしまった。
(あれが瘴気なのか! 浄化したのか⁉)
俺は初めて赤い瞳の力を実感した。それと同時に彼女のたぐいまれな力も。
恐らく、俺以外は誰も気が付いていないだろう。
黒く澱んだ忌々しい気配のものを、彼女は瞬きするほどの短い時間で消し去ってしまった。
アリアナ王妃や王太子の婚約者になったフローレンス嬢にだってここまでの力はないはずだ。
ものすごいことをしたというのに、彼女は平然としている。