おこぼれ聖女と魔眼の騎士
彼女と別れたあと、俺は王宮に戻り宰相に面会を申し込んだ。
第三騎士団のアラン副団長としてではなく、宰相補佐のシュナーデル公爵家の跡継ぎアーロンとしてだ。
「アーロン・シュナーデル様です!」
この赤い髪が目印になったのか、騎士のひと声で宰相室の内側から扉が開けられた。
部屋には宰相と、俺の父である現シュナーデル公爵の姿が見えた。
ふたりは俺を待っていたようだ。
「おお、どうだった? 街の様子は」
宰相がわざとらしい優しげな声を出して、声をかけてきた。
「相変わらず、井戸の問題があちこちで起きているようです」
「そうか」
宰相は残念そうな面持ちで、父の方を見た。
「困ったことになった」
大噴水の完成が近いというのにこのありさまだから、宰相としても頭の痛いことだろう。
ただ、俺の父親はそうではなさそうだ。
「王妃様のご威光もこれまででしょうねえ」
どこか皮肉気にすら感じる声色だ。父は王妃様に思うところがあるらしい。
「シュナーデル公、言葉を慎め」
宰相のひと声で、父は嫌そうにしながらも口を閉じた。
このふたりは同じ年で、長いこと王家に尽くしてきた間だから気安い関係でもある。
上下関係で言えば宰相の方が偉いのかもしれないが、例の力がある限り父の横柄な態度も許されるのだろう。
ふたりの間には、なぜか緊張した空気が漂っていた。