おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「例のものには会えたか?」
井戸の治癒師の評判は王宮にまで届いていた。
「はい。今日トラブルのあった井戸に来ていました。枯れた理由はわからないようでしたが、近くに水の出そうな場所を見つけたようです」
「なにか力がありそうだったか?」
「今のところはなんとも……」
俺はとっさに、彼女の手から溢れる光を見たことを父にも宰相にも伝えなかった。
このふたりのような腹の底から真っ黒な貴族に、あの子を利用されたくないと思ったからだ。
「どうやらフォレスト薬草店のものらしいです」
「なに⁉」
父と宰相は、フォレスト薬草店の名を出すとわかりやすく顔色を変えた。
「あの方の……」
「天才薬師といわれたセバスチャン様が付いていたなら、井戸についての知識があるのも頷けるな」
セバス・フォレスト。正しくはかつて王宮薬師だったセバスチャン・フォレスト。
宰相と父は苦虫をかみつぶしたような顔になった。
この王国でも高位のふたりにとって、セバスチャン薬師は特別な存在のようだ。
「もしかしたら、あの方の知恵かもしれませんな。アーロン、しばらくその治癒師から目を離すな」
その力は俺なんかには想像もできないが、父たちには絶大らしい。
父からの正式な命令だ。
堂々とあの子のそばにいられる口実をもらったようなものだ。
「しばらく第三騎士団の所属という立場を続けてくれ」
宰相からのお墨付きもありがたい。
「では、なにかありましたらご報告します」
父たちはまだ話し合うことがありそうだから、俺はさっさと宰相室をあとにした。