おこぼれ聖女と魔眼の騎士


宰相の部屋を出て廊下を歩いていたら、大理石の柱の陰からひょっこり見知った顔が飛び出してきた。

「アーロン!」

「ジョフレ殿下」

二年前のお茶会の日以来、俺とジョフレ王子はよくつるんでいる。
末の王子というだけに、ジョフレ様は王太子のスペアという立場でもないし自由に動ける。
俺の仕事にも興味津々で、よく首を突っ込んでくるのだ。

「なにか面白いことでもあったのか?」

この王子の嫌なところは、人一倍カンが鋭いところだ。

「いえ、特には」

「ふうん、そうかな? いつもより楽しそうに見えるけど」

「とんでもございません」

まさか、あの時の少女を見つけたとは言えない。
ジョフレ様なら権力であの少女を呼びつけるくらいやってしまいそうだ。
それに王妃様に彼女の存在を知られるのはもの凄くマズい気がする。

「しばらく第三騎士団でのお役目をいただきました。王宮に来なくてよくなったので、顔が緩んだんでしょう」

王子は俺の王宮嫌いをよく知っているから納得するだろう。

「え? アーロンが王宮に来ないの?」
「はい。当分の間ですが」

「つまらないなあ。遊び相手がいないじゃないか」

ジョフレ様には申し訳ないが、王子の暇つぶしの相手なんてごめんだ。
侍従に頼んで、遊び相手には他の者を探していただこう。

「それでは失礼いたします」
「あ、アーロン!」

名残惜しそうな王子と別れて、俺は足歩取りも軽くわが家に向かった。
街のはずれに、騎士アランとしての家があるのだ。
いつかは母を呼び寄せてやりたくて買った、小さな小さな家だ。

普段は俺の乳母だったメアリが家族と住んでいて、いつ立ち寄っても歓迎してくれる。
それこそ広大な侯爵家よりも、俺が心から安らげるわが家と呼べる場所だ。


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