おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「どうして王都のあちこちで井戸水が枯れるとお思いですか?」
「さあな」
じいちゃんの答えは取り付く島もない。
「さっきエバは伏流水の話しをしていました」
「ああ、そうかい」
「王都の井戸水は、ほとんどが伏流水から汲み上げていたってことですよね」
アランさんの指摘に、じいちゃんは軽く首を縦に振った。
「北の山脈には霊峰マント山がある。王都まで流れてくるマントール川の源は、そこから湧き出た水だ」
「はい。それはわかります」
「王都は長い年月、霊験あらたかな水の恩恵にあずかってきた」
じいちゃんはゆっくり話し続ける。
「だから王都は清らかな水に恵まれ、霊峰が持つ浄化の力で悪しきものは寄りつけなかった」
アランさんが眉をひそめた。
「その流れが歪められたとしたら、王都はどうなる?」
「それは……もしかしたら……」
「あれじゃよ」
あれというのは、私にもわかった。
大噴水の工事のことだ。
大噴水に使われる水は、王都の北にある聖なる山と呼ばれるマント山にある湧き水を利用する計画だ。
山から王都まで湧き水の流れとは別の水路を造って、王宮のある小高い丘の上にある池に溜めておくのだ。
大噴水の工事は、王都まで流れてくるマントール川の聖なる力を人の手で捻じ曲げてしまったということだ。