おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「聖なる水のおかげで王都は清められていたというのに、無理やり人の手で流れを変えてしまったのか」
これまでは大自然の力で、私たちが気がつかないまま王都は浄化されていたらしい。
アランさんはじいちゃんの説明に納得しながらも、難しい顔をしている。
「もう目を開けていいぞ」
じいちゃんの言葉に、アランさんはゆっくりと瞼をあげた。
赤い瞳がキラッと光る。
単純だけど、単純に割り切れない問題だった。
王家の威信をかけた大工事が民の暮らしに悪影響を及ぼしているなんて、とうてい口に出せない。
「大事な流れを壊してしまったから霊峰の力は途絶えてしまった。これから王都でなにが起こっても不思議ではなかろう」
じいちゃんとアランさんの話を聞いていただけで、背筋にゾクッと悪寒が走った。
大噴水の工事のせいで、王都に瘴気が溜まり始めている。
やがて井戸だけではなく、人や獣に影響が出始めるだろう。それは病か獣の魔獣化か、最悪両方かもしれない。
「それにな、このところ立て続けに井戸が枯れているだろう。いつ水が枯れるかもしれないという恐怖が、住人たちの心を蝕んでいる」
「恐怖心がですか?」
「ほかにもあるさ。誰かを恨むとか、怖れる、妬むといった負の感情。人々の心が瘴気のもとにもなる」
じいちゃんの言葉に、とうとうアランさんは黙り込んだ。
「これまでは清らかな水が、人間の悪感情まで洗い流してくれていた。今は王都に瘴気が溜まりやすいんじゃろうな」
淡々と話しているのに、じいちゃんの声は重く響く。
「これはお前さんの専門だろう?」
じいちゃんの問いに、しばらく無言だったアランさんがボソッと答えた。
「……俺の力では、そこまで細かいものは見えないんです」
「ハッ、役に立たんな」
聞き間違いでなければ、アランさんは『俺の力』と言った。
私のとは違う、瘴気が見えるような力がアランさんにはあるんだろうか。
しかも私が聞いているのに堂々と話すくらいだから、ふたりとも隠す気はないんだろう。