おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「あの時の女の子だ!」
少年が大きな声で叫んだ。
「あの時?」
いつのことかと私は首を傾げたが、なぜかアランさんが慌てだした。
黙れとでもいうように、少年の口を押えてしまった。
「お前、ズルいじゃないか」
その手を振り払って少年が大きな声を出すと、ますますアランさんが慌てだした。
「今日のところはお送りしますから、帰りましょう」
「ええ~⁉」
少年はグズグズと文句を言い続けているが、アランさんが引きずるようにして歩き出した。
「じゃあまた」
「はい。今日は送ってくださって、ありがとうございました」
騎士団の制服がよく似合うアランさんと綺麗な少年のふたり連れは、あっという間に路地の向こうに姿を消した。
(誰だったんだろう)
記憶を探っても、あんな目立つ少年に会ったことはないはずだ。
アドラさんの店で働いていたときのお得意先の令息だろうかと、あれこれ考えを巡らせながら私は店に入った。