おこぼれ聖女と魔眼の騎士


「だから、アーロンの想い人かって聞いているんだよ」

「……」

斜め上の方向に話しがいってしまい、返事が出来ない。

「ふうん、そ~ゆ~こと」

王子はニヤニヤしていたが、それどころではない。
あの園遊会の日のことを、王子も覚えていた。
あの子がキラキラした治癒の力を持っているのは、ふたりの秘密にしたはずだった。
彼女の力を認めてしまうと、とんでもないことになるってジョフレ王子にはわからないんだろうか。

(三人目の聖女がいたなんて、誰が信じるっていうんだ)

ひとり目の聖女は王国の危機を救った聖女で、王妃のアリアナ様。
ふたり目の聖女として王家が認めたのは貴族の令嬢だ。しかも王太子の婚約者におさまっている。
実はもうひとり、平民の聖女がいましたなんてことになったら王家の威信はどうなる。

(あの子はきっと、聖女だってことを隠している)

セバスチャン薬師はどうやらわかっているみたいだが、薬草について学んだり治療院で働こうとしているだけで、聖女になりたいわけではなさそうだ。

(でも井戸の浄化が出来る以上、聖女だとバレるのも時間の問題か)

彼女の持つ、治癒とか浄化とかの不思議な力を表現できる言葉は聖女しかなさそうだ。

「おい、なにぼんやりしているんだ」
「いえ、お早くお戻りになった方がよろしいかと存じます」

「お前も口うるさくなったなあ」

子どものころからの付き合いだが、そろそろ王子にも自覚してもらいたい。
俺はシュナーデル家を継ぐ人間だ。
王家のために、この力を使うためだけに生かされている。
いつまでも王子とじゃれあっているわけにはいかないんだ。

「実は、おまえに話があったんだ」
「なんでしょう」

「ここでは話せない」

王子の言葉に、隠れていた護衛たちに目配せした。
王子が勝手に出歩いていたから、彼らもあちこち探し回っていたんだろう。

「では、後ほどお部屋に伺いましょう」
「うん」

今度は素直にうなずいてくれたので王子を護衛に託して、俺は無言のまま見送った。

『想い人』

その言葉だけ、ずんと心の奥に残っていたが。

彼女のことを誤魔化せただろうか。これからどうやってエバの存在を隠せばいいんだ。
厄介なことに、王子まで首を突っ込んできてえしまった。

足取りは重かったが、約束した以上は仕方がない。
俺は王城に向かって歩き始めた。






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