おこぼれ聖女と魔眼の騎士
俺がノックして王子の部屋に入ったら、すでに王子らしい服装に着替えてソファーで寛いでいた。
「お話とはなんでしょう」
一礼してからすぐに話を振ると、ジョフレ王子は嫌そうな顔をした。
「せっかちだな、お前」
「はあ」
「ついてこい」
ため息まじりに王子は立ち上がると、壁にかかる自身の肖像画が描かれた大きな額縁のそばのタイルを軽く叩いた。
小さな四角の穴が開いて、そこに手を入れると重い音と同時に壁が動く。
「これは……」
そこから額の後ろまでが人幅くらいだけ開いて、石造りの細い通路が見える。
「よろしいのですか?」
王子がコクリと頷いた。一緒について来いということらしい。
こんなところ、俺が通っていいはずはない。王族専用の隠し通路だ。
こうすることを見越していたのか、王子の自室は人払いがされていたことに気がついた。
沈黙のまま王子は細い通路をどんどん進んでいく。
所々に光る石を埋め込んでいるせいか、まったくの暗闇というわけではなさそうだ。
慣れたもので、うす暗い中でも王子の足取りは軽い。それにいくつかあった分かれ道で迷いもしない。
幼い頃からいく度も歩いて、体感として覚えさせられているのだろう。
俺ひとりでは元の部屋に戻れる気がしないと思った時、ふと、体がぞわぞわしてきた。
(この感覚……)
王宮内に瘴気が発生しているとは信じがたいが、間違いない。
王族専用の通路でこんなものを感じるなんて、発生源はどこだろう。
「王子、これは」