おこぼれ聖女と魔眼の騎士



「シッ」

王子が小さく息を吐いてから、俺を見て首を縦に振った。
王族には多少だが瘴気を感じる力があるというから、彼にもわかっているのだろう。

(王宮には聖女である王妃様がおられるのに、なぜだ?)

王妃様でも浄化できないほどの瘴気なのだろうか。
王妃様の力はどの程度なのかと考えていたら、急に足を止めた王子にぶつかりそうになった。

王子が埋め込んである小さなタイルに触れて、音を立てないようにゆっくりゆっくりと壁を横にずらす。
その細いすき間から見えたのは、豪奢な寝室だった。

(ここは、もしかしたら、いや、まさか)

俺は混乱していた。
間違いなく、ここは王の私室だ。

(寝台の中にいる方は……)

横たわっているのは、おそらくルドルフ国王だろう。

だが、信じられない。この部屋には濃い瘴気が渦巻いていて、王の体の周囲を取り囲んでいるのだ。
隠し通路から見ても国王陛下の顔色はどす黒く変色しているし、目を閉じているから息をしているかどうかすら確認できない。

俺はゴクリと唾をのみ込んだ。



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