おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「わかるか?」
王子が低い声で呟いた。
「はい」
「残念だが、母上にはこれほどの瘴気を祓う力はない」
「えっ?」
「聖水を集めて、寝台の周りを清めるのがやっとなんだ」
わずかな灯りだが、寝台の周りにいくつもグラスが並べられているのが見えた。
聖水だけでは祓えないのかと考えていたら、ジョフレ王子が悔しそうに唇を歪めているのに気がついた。
国王というより、自分の父親がなすすべもなく横たわっているのだ。
どれほど悔しいだろう。
「母上の力では、聖水を作ってこの状態をなんとか維持するのがやっとなんだ」
「神殿に助けを求めないのですか?」
「神官たちには、母上と同じ程度の力しかない。それにこんな状態だと周辺国に知られるわけにいかないから、ごく一部にしか話していない」
そんな重大なことを知ってしまった俺は、身震いしてしまう。
ジョフレ王子はひとりで悩んでいたんだろうか。
お気楽な第三王子だという先入観は間違っていたのかもしれない。
シュナーデル家は王家のためにある家だ。
もしかしたら王家を守るという意味には存在とか格式とかだけでなく、王族の心を守るというのも含まれているかもしれない。
俺はジョフレ王子を支える決心をした。
「とこのままだと、父上の命が危ない」
「どうしてこんなになるまで……」