おこぼれ聖女と魔眼の騎士
そう言いかけて、俺は口を閉じた。
王妃様ができないなら、いったい誰が国王を治せるというんだ。
王子はまた壁に触れて、すき間をゆっくりと閉じていく。
俺たちはまた真っ暗な細い道を歩いて、王子の部屋に戻った。
暗闇から明るい光に満ちた王子の部屋に入ると、俺の背中は汗ばんでいた。
物凄く緊張していたんだろう。心なしか王子の顔色も悪い。
「一年くらい前かな。俺が気がついた時には、父上の瞳から光が消えていた」
一年前といえば、そろそろ大噴水の工事の終わりが見えた頃だ。
「理由はおわかりですか?」
王子は首を横に振った。
「大噴水の完成が近いというのに、父上から澱んだ気が溢れだしたんだ」
「国王陛下が王妃様のために造られたというのにですか?」
「おかしな話だろう。父上は喜んでいいはずなのに」
ひと呼吸おいてから、王子は信じられない言葉を繋いだ。
「もしかしたら、あれは母上のためのものではないのかもしれない」
「まさか!」
「お前は聞いたことがないか? 父上には、幼い頃から決められていた婚約者がいた話」
「陛下と聖女様との結婚が決まったから、喜んで身を引いたといわれている方のことですか?」
「そんなの作り話だろう。誰が信じる?」