おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「父上はきっと、その方を愛していたんだ」
「まさか」
国王陛下が瘴気に侵された今となっては、意思の疎通は難しいかもしれない。
「その方に見せるために、今でも想っているって伝えるために大噴水を造らせたような気がしてならないんだ」
王子の思い込みだろうと思ったが、セバスチャン薬師の言葉がよみがえってきた。
『誰かを恨むとか、怖れる、妬むといった負の感情。人々の心が瘴気のもとにもなる』
幼い子でも知っている、この国の国王と王妃の恋物語。
真実の愛で結ばれたというおふたりの関係は、偽りのものだったのだろうか。
長い年月、過去に愛した人の面影を追い続けた陛下は瘴気に囚われてしまったのだろうか。
「頼む、お前の家の力を使って、元婚約者だという方を探してもらえないか?」
その女性に会えば、国王の澱んだ気持ちも晴れるかもしれない。
王子は陛下の回復させるため必要なことだと願っているようだが、そんなにうまくいくだろうか。
「今さらその方を見つけても、王妃様がご不快に思われるだけでは?」
俺は瘴気が見えるが、人の心に巣くう負の感情なんてわからない。
だから王家の人たちに愛とか憎しみとかの感情が渦巻いていたとしても、どうしようもないんだ。