おこぼれ聖女と魔眼の騎士
こんな時に俺が頼るのは、王都にある俺の家を管理してくれている乳母のメアリだ。
長年シュナーデル公爵家で働いていたから貴族の内部事情に詳しいし、それなりに伝手もある。
かつて国王陛下と婚約していたというご令嬢が今どうなさっているか、もしかしたら知っているかもしれない。
そう期待して、俺は家に帰った。
***
「あの話ですか?」
明るくて話し好きなメアリが、国王陛下の元婚約者のことを教えて欲しいというと黙り込んでしまった。
「そうだ。なぜか貴族年鑑にも公文書にも記録は残されていないんだが、どちらの家のご令嬢だったんだろう」
「どうしてもお知りになりたいんですか?」
「ある方に頼まれてしまってね。こんな話を父上に聞くのもどうかと思って」
父に聞くと言うと、メアリが真っ青になった。
「けっして、お父上にこの話題を振ってはいけません!」
「メアリ?」
「あ、失礼いたしました」
表情を取り繕うが、どうも様子がおかしい。
「昔、なにかあったんだな。そして父上にも関係していたんだ」
「は、はい」
メアリが重い口を開いた。
正確な情報ではないからと前置きをして、ポツポツと話し始める。
それは想像以上に重い話だった。