おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「残酷な話だな。でも、この話のどこに父上が関係しているんだ?」
「公爵様は、テレジア様が婚約破棄されたならご自分が妻にするとおっしゃって……」
「はあ?」
「奥様を離縁して、テレジア様を正妻に迎えたいと王家に直訴されたんです」
父には当時、正妻も側室もいたはずだ。
「あの人はなにを考えているんだ」
自分の父親といえど、あまりに恥ずかしい話だ。
「それくらいテレジア様はお美しくて教養のある方だと評判でございました」
強欲な父は、王族に相応しいくらい高貴な女性を自分のものにしたかったのか。
「最悪だな」
テレジアという女性が気になった。
メアリの言葉通りなら、まさに王妃に相応しい方ではないか。
それほどの方を捨ててでも、陛下は聖女様と結婚されたかったのか。
それとも当時はまだ王太子だったから、父である国王の命令に従うしかなかったのか。
ジョフレ王子は、国王陛下は王妃様を愛していないと言っていた。
「いったいなにが真実なんだ」
「坊ちゃま。人を愛する気持ちは、他人にはわかりませんよ」
父のような男を見ていると、真実の愛なんてこの世にあるんだろうかと疑ってしまう。
国王陛下のお気持ちは誰にあるのか、どうして瘴気に侵されてしまったのか、疑問ばかりが膨らんでいった。