おこぼれ聖女と魔眼の騎士
正しいこと
それから秘かにあちこちの修道院に人をやって調べていたら、意外に早く該当しそうな人物が見つかった。
国内でも辺鄙な場所かと思いきや、王都のはずれにあるトール修道院にテレジアという院長がいるというのだ。
(まさか王都に?)
人の多い場所の方が、かえって目立たなかったのかもしれない。
小さな古い修道院らしいが、孤児院も兼ねているらしく、慈悲深い院長様だと近所の人たちから慕われているようだ。
ジョフレ王子には事実確認してから報告しようと、俺はその方に会いに行くことにした。
第三騎士団の仕事は名目だけだから、ほぼ自由に動ける。
俺はトール修道院を目指した。
街はずれの旧道沿いを歩いていくと、小一時間もしない間に農家や牧場といったのんびりとした風景が広がっていく。
すれ違う商人にトール修道院の場所を尋ねたら、気さくに教えてくれた。
小高い丘と小麦畑を越えた先に数件の集落があって、一番奥にあるのが修道院だという。
教えられたとおりに高台の上に立つと、眼下に小麦畑と鄙びた建物が見えた。
(こんな田舎で、何年も?)
大貴族の令嬢が身をやつしたといえ、華やかさとは縁遠い場所だ。
こんなところに住み続けていたとは、信じがたい。
修道院から少し離れた木立に隠れるようにして、しばらく観察することにした。
数人の子どもが庭で遊んでいるのが見える。
話しに聞いていた孤児たちだろうか。こざっぱりとした衣服を着て、髪もきちんと整えられている。
少し痩せているかもしれないが、みな血色もよく元気そうだ。
清貧という言葉が頭に浮かんできた。
清々しい空気が流れているような場所だと、本能的に感じる。
俺の能力でも悪しき気配は感じられないから、ここは安心できる。
建物から小柄な女性が出てきた。
青い服に青いエプロンを見て、治療院の制服だとすぐに気がついた。
エバがいつも着ているから、間違いないだろう。
「エバ⁉」
トール修道院で、まさかの人物を見かけてしまった。