おこぼれ聖女と魔眼の騎士



アドラさんは、奥さんと三人のお嬢さんを溺愛している気のいい親父さんだ。
でも腕は一流なので、王宮の庭師から相談を受けることもしばしばだった。
勤め始めてから二年ほど経つと、私も王宮の仕事に行くメンバーに選ばるようになった。

見上げるほど高い塔のある王宮。広大な庭園、そこは別世界だ。
聖女である王妃様に会えたらいいなと思ったけど、もちろん無理な話だ。
庭師の雑用係なんかが王妃様のお近くに行けるはずもない。

一度だけ遠くからお見かけしたけど、大勢の侍女や護衛の騎士に囲まれていたっけ。
威厳ある佇まいだったし、豪華なドレスに身を包み胸元には大きくてキラキラした宝石を飾っておられた。

ふと私は、テレジア院長様のことを思いだした。

(そういえばテレジア様と王妃様って同じくらいのお年だ)

高位貴族の令嬢が修道院へ入るというのは、深い事情があってのことだ。

(物語では、王太子様の婚約者は自ら身を引いて聖女様を祝福されたってことだったけど)

テレジア様がもし当時の王太子様、つまり今の王様と婚約していたとしたら。

(もしかして聖女様が選ばれたから、修道院へ……なんて、まさかね)

聖女様と貴族の令嬢のどちらが王妃に相応しいかと言われたら、聖女様かもしれない。

(だって、あれほど綺麗なテレジア様が修道院に閉じこもっているなんておかしくない?)

さすがに考えすぎかなと思って、私は勝手な空想を胸の奥にしまい込んだ。





< 7 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop