おこぼれ聖女と魔眼の騎士
大噴水
日暮れが近づいていた。
西の空が少しずつ茜色に染まっていく。
「エバ、送っていくよ」
「ありがとうございます。でも、私なんかと歩いたら」
アランさんが公爵家の方とわかったら、これまでみたちに気楽でいられない。
何度もフォレスト薬草店まで送ってもらっていたなんて、恐れ多い。
「気にしないでくれ。俺の血はそんな立派なものじゃない」
下級貴族の母から生まれたから、屋敷での扱いはひどいものだったとアランさんは笑った。
貴族の身分に生まれても色々あるようで、私には想像できないような世界なんだろう。
「無理に笑わなくていいですよ」
「エバ」
「苦しい時に笑ったら、心が疲れるだけです」
「そうだな」
アランさんは硬い表情に戻った。
「国の大事に巻き込んですまない」
「いえ、私にはなにも出来ないかもしれませんし、国のことなんて考えていませんから」
「え?」
私の言葉にアランさんはギョッとしたようだ。
聞きようによっては、反逆罪に問われそうだもの。
「私は、私の命を救ってくださった院長様のためにがんばるだけなので」
「ああ、そうだったな」
私の力で祓えるものなら、国王陛下の瘴気を浄化してしまいたい。
それでテレジア様がひと目だけでも国王陛下に会えるのなら、こんなにうれしいことはない。
私たちはゆっくりと歩いて街の中心部に向かった。
アランさんと歩くのはこれで最後になるかもと思ったら、胸の奥がギュッと掴まれたような痛みを感じる。
(ああ、この方のこと好きだったんだ)と、私は独り言ちていた。
「あ、あれは?」
ぼんやりしていたら、アランさんが小声でつぶやいた。
遠くを見つめているアランさんの視線の先にあったのは丘の上の王宮だ。
だが、それはいつもの白亜の姿ではない。