おこぼれ聖女と魔眼の騎士
想像以上に華美な馬車だった。
私たちの近くに止まったら、騎士がうやうやしく中にいた貴婦人を下ろそうとしている。
「王妃様……」
アランさんが大きく目を見開いていた。
以前お見かけした時は、キラキラと輝く宝石をいっぱい身につけていた王妃アリアナ様が、今朝は濃紺のドレス姿でこちらに歩いてこられる。
もうひとり、美しい令嬢がその後に続いている。
「フローレンス・マンシュタイン様」
もうひとりの聖女、王太子殿下の婚約者になったご令嬢だ。
尊い身分の方を前にして、今度は別の意味で緊張してしまった。
とりあえず頭を下げるしかないと気がついて、深々と礼をした。
「よい、頭を上げなさい」
凛としたお声だ。
おそるおそる私は頭を上げかけたが、視線は大地を見つめたままだ。
「恐れながら王妃様、なぜこの場所に」
「宰相からすべて話は聞きました。もちろん、あなたの父上らからも」
アランさんの問いに、鷹揚にお答えになっている。
おそらく宰相様が、昨夜の話し合いの結果を王妃様にご報告したのだろう。
「私たちにも力にならせて欲しいの」
王妃様のお言葉に、アランさんも私も返す言葉が見つからなかった。