おこぼれ聖女と魔眼の騎士
「エバ、これからが勝負だ」
「はい。院長様は?」
「早朝に迎えを出しておいたから、そろそろ王宮に着いておられるだろう」
俺はエバの手を引いて歩き出した。
エバも俺の手を握り返してくる。言葉がなくても気持ちが伝わるとは、こういうことなんだ。
お互いの温もりを知ることで、信頼しあっていることがわかる。
これだけの力を使ったのだから、かなり疲れているだろう。
俺はそっとエバの肩を抱いて引き寄せた。
「無理をさせてすまない」
「アランさん」
「俺のホントの名は、アーロンだ」
「アーロン………様?」
エバの声が震えている。貴族の名を呼ぶのは戸惑いがあるのだろう。
「いや、やっぱり、これまで通りアランと呼んでくれ」
コクリとエバが頷いた。
これでいい。エバの前での俺はシュナーデル公爵家のアーロンではない。
ただの第三騎士団副団長のアランだ。
池のほとりに来た時と同じように、エバを馬に乗せる。
やはり疲れているのか、コトリと俺に体を預けてくるエバがかわいい。
ふたりとも無言のまま、王宮に戻った。