おこぼれ聖女と魔眼の騎士




王の私室。

王妃様にもお伝えしていたが、ここにはお見えになっていないようだ。
お疲れがでているのかもしれないし、テレジア様を避けたのかもしれない。
人払いがされていて、侍女や騎士も最低限しか扉の前にはいなかった。

第三王子の案内で、俺とエバ、そしてテレジア院長が中に入る。
少し瘴気は薄くなったようだが、寝台に眠る国王陛下の顔色は悪いままだ。

エバはすぐに手を伸ばしてなにか口の中で唱えている。
すると指先からいつもの光の粒がキラキラと流れ出してきた。
寝台の周囲に渦を巻いている瘴気に吸い込まれるように入っていく。

しばらくはどす黒い瘴気と同じ方向にクルクルと光が回っていた。
回転が早いからか、光の粒は今や水の流れのような線になっている。

テレジア様は身動きもせず、ただ国王陛下を見つめていた。
何を考えていらっしゃるのか、俺にはわからない。
まっすぐに陛下を見ているだけなのに、声をかけられないくらいの緊張感があった。

どれくらい時間がたったのだろう。
澱んでいたものが、スーッと消えていく。部屋の中の空気が綺麗になっていったのがわかる。
部屋の中の瘴気は消え、太陽の光が差し込む明るい部屋に生まれ変わっていた。
こんなに明るい部屋だったのかとあきれるくらいだ。

「殿下……ルドルフ様?」

テレジア様が寝台に駆け寄り、国王陛下にお声をかける。
お名前を呼んでも、ここには誰も不敬だと責める者はいない。

テレジア様のお声が届いたのか、陛下がゆっくりと目を開いた。
落ちくぼんでいる目で、テレジア様のお顔を捉えたようだ。

「テレジア?」
「はい」

痩せて骨ばかりになった陛下の手を、テレジア様がそっと握っている。

「これは……夢か……」
「夢でございます」














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