おこぼれ聖女と魔眼の騎士
そこから先は、俺とエバにはわからない。
第三王子だけを残して、俺たちは部屋から廊下に出たのだ。
「お疲れ」
「お疲れ様でございました」
エバが頭を下げるが、どうも態度がよそよそしく感じられる。
「エバ、フォレスト薬草店まで送っていくよ。セバスチャン薬師が心配しているだろう」
「いえいえ、ひとりで大丈夫ですのでお気遣いなく」
「エバ?」
これはおかしい。これまでのエバの態度とは違っている。
「なにを考えている?」
思わず廊下の壁にエバを押しつけてしまった。
疲れているし、エバの態度に腹が立つし、どうにも荒ぶる感情が止められない。
「なにをって……貴族のアラン様に送ってもらうなんて」
「エバ、君の前では、ただのアランだ」
「でも」
エバの肩を手で掴んで、ゆっくり言い聞かせる。
「俺は、お前の言葉に救われて生きているんだ」
「は?」
「生まれてから今日まで、この赤い瞳が綺麗って言ってくれたのはお前だけなんだ」
「アランさん」
「お前まで、俺を嫌わないでくれ。俺のそばからいなくならないでくれ」
なんだか胸がいっぱいになって、俺は小さなエバの肩に顔を押しつけた。
エバは重いだろうに俺の頭を抱えて、よしよしとばかりに撫でてくれている。
「わかりました」
「………」
カッコ悪くて顔が上げられない俺に、エバが言う。
「アランさんの赤い瞳、私大好きですから」