おこぼれ聖女と魔眼の騎士
なんとか時間通りに作業が終わったので、アドラさんたちと顔を見合わせてホッとした。
王宮庭師の方々からも感謝されて、私のエプロンのポケットにあめ玉を入れてくださったくらいだ。
みなの気が緩んだせいか、トラブルが起こった。
アドラ園芸店の庭師のひとりが道具を片付けている時に、うっかりハサミで手を切ってしまったのだ。
かなりざっくりと切ったらしく、布で巻いても血が止まらない。
私たちのような身分の低い者が、王宮の美しい芝生を血で汚すなんてことは許されない。
その場にいた全員が青ざめて、厳しい処分を覚悟した。
私も身体が震えた。これはただ事ではないとわかったからだ。
(アドラさんにお咎めがあったらどうしよう。どうしたらいい?)
一緒に働いた大事な人たちが処罰されたら悲しすぎる。
思わず私は庭師さんに駆け寄って、思わず傷口を握りしめた。
(お願いだから、止まって)
心の中で必死で願うと、みるみるうちに傷口は塞がっていった。
おまけに芝生に流れた血は水で洗い流したようにキレイになって、血痕は一滴も残っていなかった。
私も驚いたけど、周囲の人たちも口をポカンと開けたまま。
なにが起こったのか、誰にもわからなかったのだ
私が傷口を塞いだのと同じころ、どうやらお城の中でも同じようなことが起こっていたらしい。
招待されていた貴族のお子様たちの数人が言い合いになってしまい、騒いでいるうちに大きな花瓶が割れて上位貴族のご令息がケガをしてしまった。
その傷をフローレンス侯爵令嬢が治してしまったので、新しい聖女様の誕生だと大騒ぎになったのだ。