ただ…傍にいたいだけ…
俺は、次の日からほぼ毎日、雛葉のいる定食店に通った。

学校終わりに、夕食を食べに。


俺の両親は共働きで、夜中しか帰ってこない。
今まで夕食は、ダチとファミレスか、家で簡単に作って食べていたから、ただ…夕食が定食店に変わったってだけだ。


そして今日も、ダチの翔琉(かける)(カケ)と徳仁(なるひと)(ナル)の三人で、雛葉の定食店に来ていた。

「いらっしゃい━━━━あ!お帰りなさい!」

雛葉は最近、俺達には“いらっしゃいませ”ではなく“お帰りなさい”と言ってくれていた。

なんだか、俺だけ“特別”な感じがして嬉しい。

まぁ……毎日通ってんだから、当然なのだろうが(笑)


「いつものでいい?」

「はーい!」

「ん。じゃあ、唐揚げ定食三つね!」

「なぁ、雛葉」

「こら!雛葉って呼ばないで!
石崎さんでしょ?
せめて、雛葉“さん”って呼んで!
年上の女性を、敬って?」

「やだ」

「私も、やだ!」

「なんで?」

「私のことを“雛葉”って呼べるのは、旦那だけって言ったでしょ!」


そう━━━━━━

雛葉は、既婚者だ。


「雛葉の旦那って、どんな奴?」

「だからぁ!石崎さんだって!
………ったく…
真面目で優しい人!」

「真面目で優しいって、何も良いとこない奴のことを言う時の常套句みたーい!!」

「はい?
失礼ね!
とにかく!とぉーっても、素敵な人!!」
そう言って雛葉は、自分の左手の薬指の指輪に触れた。


なんだよ……

幸せそうな顔しやがって!!


「旦那なんて、いなくなりゃあいいのに……」



つい、本音が言葉に出ていた━━━━━━

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