ただ…傍にいたいだけ…
霊園に着き、歩いて5分。

石崎 良一の墓の前に、雛葉がいた。

「雛葉」

「あ、琉輝くん!」


一ヶ月前と変わらない、雛葉がいた。


俺は雛葉の顔を直視出来ず、俯いた。

「痩せた?」

雛葉が近づいてきたのが、わかった。

「うん。少し」

「ちゃんとご飯食べなきゃだよ!
育ち盛りなんだから」

「………うん」

「話、していい?」

「うん」

「じゃあ、私を見て?」

ゆっくり顔を上げると、優しい雛葉の笑顔があった。


「フフ…
琉輝くん。
貴方を、傷つけてばかりでごめんなさい」

「いや、悪いのは俺だし。
ごめん。犯したりして……」

「もういいの。
私、嫌じゃなかったから」

「え……」

「琉輝くん。
私は、良一が好き」

「うん」

「でもね……琉輝くんの言う通り、琉輝くんに心が揺れていたことも事実だよ!
琉輝くん、あまりにも綺麗で、真っ直ぐなんだもん!」

「え?え?」

「“身代わり”なんかじゃない。
伴場 琉輝くんに、心が揺れてた」

「嘘……」

「私ね。あの定食屋辞めて、この街を出ようと思ってるの」


え?え?
やだよ……


「雛葉!待ってよ!
遠くからでいいから、雛葉に会いたい!」


しかし雛葉は、首を横に振る。


「嫌だ!
心、揺れてたんだろ?
だったら、また━━━━
あ、いや、あんなことしたから、もうあり得ないかもだけど、わからないだろ?」


雛葉は、ただ、首を横に振り続ける。

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