捨てられ令嬢は溺愛ルートを開拓中〜ひとつ屋根の下で始まる歳上魔法使い様との甘いロマンス〜
クロウの胸の内
買い物を終えたクララとクロウは、ドーナツ屋に入った。買い物中、どこか心ここに在らずな様子だったクララを、クロウはずっと気にしていた。
買い物が終わり、約束していた新しくできたドーナツ屋とやらに入る。
「クララ、なににする?」
カラフルなドーナツが並ぶショーケースを前にしても様子の変わらないクララに、クロウが尋ねる。
「……あ、うん。えっと……キャラメルナッツにする」
しおらしくひとつだけ注文したクララに、クロウは目を丸くする。
「……それだけ? ほかは? ほら、ハニーチュロスとかチョコレートも、あ、野いちごのやつもあるぞ?」
「……うん、今日はいいや」
朝、あれだけ楽しみにしていたのにどうしたのだろう。いつもなら、五個は必ず注文するのに。
クロウはクララのどこか暗い横顔を見つめた。
やはり、学園でなにかあったのだろうか。
クロウはとりあえずドーナツとフルーツティーをふたつ注文して、空いている席を探した。
テラスの席を腰を降ろし、クロウはクララに尋ねた。
「買い忘れたものはない?」
クララはパッと顔を上げて、クロウをじっと見つめたまま考える。
「ナッツと果物と……それからパンと香辛料も買ったし、チーズも買った。うん、もう大丈夫だと思う」
指を折りながら、クララがはにかむ。その顔に、少しホッとする。
元気がないわけではないのだろうか。
「クララ、クラスはどうだった? 一年間、うまくやっていけそうか?」
「うん。シャルルとも同じクラスだし」
「……じゃあ、どうしたんだ?」
「え?」
クララはきょとんとした顔でクロウを見上げた。
「さっきから、元気ないだろ」
「……え、そう?」
とぼけるくせに、目が泳いでいる。
クララのこういう表情を見ると、クロウは最近妙に胸が騒ぐ。
クララは最近、クロウに隠しごとをすることがある。学園でのことは、以前に比べてずいぶん話さなくなった。
心配をかけまいとしているのかもしれないが、それだけではないような気もする。
もう、なんでもかんでも話してくれる歳ではないということなのか、と、少し寂しくなる。
「クロウ?」
しゅんとしていることがバレたのか、クララが覗き込んでいた。
「あぁ……まぁ、なんでもかんでも話せとは言わないが……もし、なにか困ったこととかがあったらちゃんと言うんだよ」
「うん。分かった」
クララは素直に頷き、ドーナツを掴んだ。
食べようと口を開いて、動きを止める。じっとドーナツを見下ろし、口を閉じた。
どうしたのだろう、と見つめていると、クララがちら、とクロウを見た。
「……クロウって、人気者なんだね」
「ん?」
「きれいなひとばっかりだった」
クロウは、なんの話だろう、と眉を寄せながらティーカップをソーサーに置く。
「……クロウ、今までああいうの、わたしに話したことなかったから……ちょっと、驚いた」
クララの声は弱々しい。
ぴんときた。クララはきっと、女子生徒から贈り物をもらっていたことを言っているのだ。
「あ……あぁ、まぁ、あれは単なる点数稼ぎだから。ほら、僕の授業は辛口だって有名だからね。みんなあの手この手で取り入ろうとするんだよ」
頬を搔きながら言った。
「……そうかな。そんなふうには、見えなかったけど」
「行事みたいなもんだよ。高等部とか大学部になると、みんな小狡い手を覚えてくるからな」と、言いながら、クロウはクララを見た。
「もしかして、そんなことで落ち込んでたのか?」
「……だって、クロウが迎えに来ないから」
クララのいじけた顔を見ると、妙な気分になる。
可愛くて、その手を引いて腕の中に閉じ込めてしまいたくなるような、もっと意地悪をして、その顔を見ていたいような。
これが親心なのか、クロウはいまだによく分かっていない。