捨てられ令嬢は溺愛ルートを開拓中〜ひとつ屋根の下で始まる歳上魔法使い様との甘いロマンス〜
「……迎え、そうだ」
クロウもとあることを思い出した。
「それよりクララ。お前、ロードと一緒に来ただろ」
「あ、うん。研究室棟に行こうとして迷ってたら、声かけられたの。クロウって助手さんなんていたんだね。それも知らなかったよ」
いいひとだね、ロード先生、などと呑気なことを言うクララに、クロウは深いため息を漏らした。
「あのな……いくら迷ったからって、初対面の男にほいほいついて行くもんじゃないぞ。どこかに連れ込まれでもしたらどうするんだ」
クララとロードは今日が初対面のはずだ。
クロウはこれまで、頑なにクララをロードから遠ざけていた。
彼は仕事の付き合いとしては悪い男ではないが、女癖に関してはあまりよろしくない。生徒にもごくごく普通に手を出す男だ。
できれば、クララにはロードと知り合いにはなってほしくなかった。
「……でも、悪いひとじゃなさそうだったし、クロウのこと知ってたから」
「だからってな……」
常々、クララはぼんやりしたところがある。
この世には悪意があるひともいるということを、いい加減理解してほしい。
まぁ、初対面で見ず知らずのクロウについてきた時点で分かっていたことではあるが。
特にクララは、容姿が飛び抜けている。
これまでクララに友だちができなかったのは、彼女の容姿が飛び抜け過ぎて周りが尻込みしているだけだ。本人は自分の出自のせいだなんて思っているようだが……。
シャルルのように、明るい子がさらに彼女の周りに増えたら、聡明で優しいクララのことだ。きっと一気に学園の人気者になるだろう。
もし、そうなったら。
男も放っておかないだろうな、と思う。高嶺の花に手を伸ばす者も出てくるだろう。
そして、彼女はいつか好きな男を見つけて、いなくなるのだろうか。自分の元から……。
親なら、子の巣立ちを見るのは嬉しいことのはずだ。
それなのに――なんだろう。胸の下辺りが、よく分からない心地になる。それは、なんとなくだが、気づいてはいけない感情のように思えた。
妙な気分を振り払うように、クロウは眉間に皺を寄せ、さらに続ける。
「口ではどうとでも言える。いいか、男っていうのは……」
「あーもう、分かった分かった。これからは気を付けるから」
口うるさいクロウに、クララは煩わしそうに耳を塞いだ。機嫌を悪くしたクララの横顔に、クロウはぐっと言葉を飲む。
あまり口うるさく言って、口を聞いてくれなくなったら困る。結局のところ、クララをいちばん甘やかしているのはほかならぬクロウだったりする。
「……研究室棟には、慣れるまでアンジェリルさんと一緒に来ること」
クララがクロウを見た。
「また行ってもいいの?」
「……まぁ、荒らさなければね」
「……うん! 分かった」
元気よく返事をして、クララはドーナツにかぶりついた。
よかった。機嫌が治ったようだ。
「ドーナツ美味しい」
「良かったな」
こうしてみると、クララはやはりまだまだ子どもだ。大好きなドーナツで頬をまるくして、唇の端にナッツをつけて。
クロウは苦笑しつつ、クララの頬についたナッツを取ってやった。
「帰り、ドーナツいくつかテイクアウトしてくか?」
「うん! ぜんぶ制覇する!」
聞くタイミングを間違ったかもしれない。
「……何回かに分けて、な」
「うん!」
まったく、とクロウは、目の前の天真爛漫な少女を見つめて笑うのだった。
クロウもとあることを思い出した。
「それよりクララ。お前、ロードと一緒に来ただろ」
「あ、うん。研究室棟に行こうとして迷ってたら、声かけられたの。クロウって助手さんなんていたんだね。それも知らなかったよ」
いいひとだね、ロード先生、などと呑気なことを言うクララに、クロウは深いため息を漏らした。
「あのな……いくら迷ったからって、初対面の男にほいほいついて行くもんじゃないぞ。どこかに連れ込まれでもしたらどうするんだ」
クララとロードは今日が初対面のはずだ。
クロウはこれまで、頑なにクララをロードから遠ざけていた。
彼は仕事の付き合いとしては悪い男ではないが、女癖に関してはあまりよろしくない。生徒にもごくごく普通に手を出す男だ。
できれば、クララにはロードと知り合いにはなってほしくなかった。
「……でも、悪いひとじゃなさそうだったし、クロウのこと知ってたから」
「だからってな……」
常々、クララはぼんやりしたところがある。
この世には悪意があるひともいるということを、いい加減理解してほしい。
まぁ、初対面で見ず知らずのクロウについてきた時点で分かっていたことではあるが。
特にクララは、容姿が飛び抜けている。
これまでクララに友だちができなかったのは、彼女の容姿が飛び抜け過ぎて周りが尻込みしているだけだ。本人は自分の出自のせいだなんて思っているようだが……。
シャルルのように、明るい子がさらに彼女の周りに増えたら、聡明で優しいクララのことだ。きっと一気に学園の人気者になるだろう。
もし、そうなったら。
男も放っておかないだろうな、と思う。高嶺の花に手を伸ばす者も出てくるだろう。
そして、彼女はいつか好きな男を見つけて、いなくなるのだろうか。自分の元から……。
親なら、子の巣立ちを見るのは嬉しいことのはずだ。
それなのに――なんだろう。胸の下辺りが、よく分からない心地になる。それは、なんとなくだが、気づいてはいけない感情のように思えた。
妙な気分を振り払うように、クロウは眉間に皺を寄せ、さらに続ける。
「口ではどうとでも言える。いいか、男っていうのは……」
「あーもう、分かった分かった。これからは気を付けるから」
口うるさいクロウに、クララは煩わしそうに耳を塞いだ。機嫌を悪くしたクララの横顔に、クロウはぐっと言葉を飲む。
あまり口うるさく言って、口を聞いてくれなくなったら困る。結局のところ、クララをいちばん甘やかしているのはほかならぬクロウだったりする。
「……研究室棟には、慣れるまでアンジェリルさんと一緒に来ること」
クララがクロウを見た。
「また行ってもいいの?」
「……まぁ、荒らさなければね」
「……うん! 分かった」
元気よく返事をして、クララはドーナツにかぶりついた。
よかった。機嫌が治ったようだ。
「ドーナツ美味しい」
「良かったな」
こうしてみると、クララはやはりまだまだ子どもだ。大好きなドーナツで頬をまるくして、唇の端にナッツをつけて。
クロウは苦笑しつつ、クララの頬についたナッツを取ってやった。
「帰り、ドーナツいくつかテイクアウトしてくか?」
「うん! ぜんぶ制覇する!」
聞くタイミングを間違ったかもしれない。
「……何回かに分けて、な」
「うん!」
まったく、とクロウは、目の前の天真爛漫な少女を見つめて笑うのだった。