星空の下で愛を♦年下看護師の彼は彼女に一途な愛情を注ぐ♦
奥へと進んでいくとカーテンの隙間から点滴の管が見えていて、山屋さんという患者さんが点滴治療をいている。

ベッドに横たわったまま点滴に繋がれている山屋さんは白色のニット帽を被っていて、きっと抗がん剤の副作用で失ってしまった髪の毛を見せたくないからだと思った。


「山屋さん、今からちょっとお話伺ってもいいですか?」


担当看護師の問いかけに、窓際を向いていた山屋さんがこちらを向く。

山屋さんの顔を見た瞬間、私は息をするのを忘れてしまった。


ーーお母さん……。


信じられなかった。 でも、自分の母親を見間違えるわけがない。
今自分の目の前にいる、点滴に繋がれている患者さんは、紛れもなく私の母親。

あの日……高校3年生になったばかりの頃、交際相手である男性と遊びに出て行ってしまった母。

まさか、こんな形で再会することになるなんて。


「あぁ……話? いいけど……辛いから、なるべく早くに終わらせて」

「わかりました。 じゃあ、早速……」


介護認定を申請するための市役所の方からの質問にも、冷たく返事をしている山屋さん。

そう、そうだよ。
この突き放すような冷たい言い方は、私を家に残して出て行ったときの言い方と同じ。

私もあの日を境に母と顔を合わさないようにしていたから、その後の経緯はよく知らない。
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