星空の下で愛を♦年下看護師の彼は彼女に一途な愛情を注ぐ♦
でも、私が思うにはきっと、母はあの日から変わっていないように思える。

唯一変わったことといえば、今わかることといえば。
母は今、病気であるということ。


「……さ…ん? 井筒さん?」

「え? すみません! ちょっと、聞いていませんでした……」


担当看護師から名前を呼ばれて我に返った。

いけない……今は仕事中。


「あら大丈夫? とりあえず聞き取りは終わったし、なにか聞きたいことはある?」

「い、いえ。 私からは特になにもありません……」

「わかりました。 それじゃあ、今日はこの辺で失礼します。 またなにかあれば、ご連絡いただければ」


ペコリと会釈をして、市役所の方は病室を出て行った。 担当看護師も母に「また点滴交換しに来ますね!」と声を掛けて、その場を離れてしまった。

一緒にいた若松くんが「行きますか」と言ってくれ、軽く会釈をしてから私たちも病室を出る。

……聞きたいこと。 本当は、山の様にあった。
でも今はプライベートな内容を質問する場ではない。

しばらく母は入院しているだろうけど、もう関わることはできないかもしれない。


「ごめん、若松くん。 先に戻ってて」


ーーもう、後悔はしたくない。

あの時……私は母親と顔を合わすのが嫌で逃げた。
でも、大人になった今。 大切な人ができた今、ちゃんと母と向き合いたい。
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