星空の下で愛を♦年下看護師の彼は彼女に一途な愛情を注ぐ♦
「新人看護師がなに言ってるのよ!」


鋭い目つきで俺のことを睨みつけそう言うと、彼女はそのまま走って団らん室を出て行ってしまった。 「待って!」と引き留めたけれど間に合わず、小さくなっていく井筒さんの姿。

慌ててまとめた書類の1枚がひらりと舞い、静かに床に落ちた。


* * *

時刻は23時30分を少し過ぎたころ。 今日は少し遅い時間からの出勤だったけれど、安定の残業で、俺はまだ病院に残っていた。


「……お疲れ様でした」


夜勤の看護師たちに日勤の業務内容を申し送りすると、ナースステーションにいる先輩看護師たちにそう声を掛けてから俺は更衣室に向かう。

結局あれ以降、井筒さんには出会えず1日が終わってしまった。

ソーシャルワーカーの仕事はよくわからないけれど、介護認定調査やカンファレンスで病棟でよく見かけていたから、今日もまだ顔を合わせる機会があるかと期待していたが、そうはいかなっかたようだ。

彼女が敢えて病棟に上がってこなかったのか、本当に忙しくて手が離せなかったのかはわからない。

でも……どういう言葉を掛ければ井筒さんの心に響いてくれるのか、そればかりだった。

私服に着替えると、店の灯りで賑やかな夜の街を独りとぼとぼと歩き出す。
少し歩いただけで汗ばんでしまう程、日中の暑さがまだ残っていた。
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