シンデレラは王子様と離婚することになりました。
『あの、私……』

 結婚したの。報告しなくてごめんなさい。でも、幸せに暮らしているから。
 そう伝えようと思ったのに、お父さんは私の言葉に被せるように残酷な言葉を吐いた。

『捺美、帰ってきなさい』

 その言葉は、必死に逃れようとしていた私の身体を鎖で強く締め付けた。
 抗うこともできず、ただ命令に従うロボットのように、お父さんの命令に従う。
 いつもそうだ。継母や継娘の言葉は反抗することができるのに、お父さんの言葉に歯向かうことができない。
 そして私は、実家に戻った。
 継娘は『お父さんが倒れた』と言っていたけれど、実際は疲れで横になることが増えたということだった。
 あの子はいつも物事を自分に都合よく書き換える。お父さんが倒れたと言った方が、私にインパクトを与えると思ったのだろう。
 実家に戻った私に、最初にやれと言われたのが、大翔との離婚だった。
 どこで情報を得たのか、家族はみな、私が会社の御曹司と結婚していたことを知っていた。そして、案の定、結婚には大反対だった。
 継母と継娘は、私が幸せになることを単純に望んでいないから反対する気持ちはわかる。でも、お父さんまで反対するとは思っていなかった。
 私がどんなに大翔のことを良く言っても、お父さんは納得しなかった。
 父親に結婚の報告もしてこない男に娘をやることはできないという言い分だった。あまり感情を表に出さない人だけれど、この件については本気で怒っていた。
 結婚式にも呼ばなかったことに、傷付いているらしい。それは、私が頼んだからだと言っても、お父さんの怒りは収まらなかった。
『離婚しろ』の一点張りで、聞く耳を持たなかった。
 実家に戻るという選択をした時点で、離婚になることはある程度予想がついていた。継娘から接触を受けたとき、実家に戻る決断をしなかったのは、大翔と離婚したくなかったことが一番大きい。大翔と、離れたくなかった。
 でも、実家に戻るということは、離婚することを了承したのと同じようなことだ。離婚したくないのなら、実家に戻らなければいい。それなのに私は、実家に戻ってしまった。
 もう、覚悟を決めようと思った。そうして、離婚届に記入してテーブルの上に置いて、黙って家を出てきたのだ。
 そして今、私は奴隷のような生活に戻った。
 自分から天国から地獄へと降りたようなものだ。自分でも、どうしてそんな選択をするのかわからない。
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